やっと「普通」になれた
22歳。大学卒業。上場企業に総合職で入社した。
中学3年間不登校。定時制高校。偏差値30から公立大学。そんな経歴の人間が上場企業。母親は泣いて喜んだ。親戚の態度が180度変わった。
「きこくん、立派になったねぇ」
うるせえよ。不登校の時「あの子は将来どうなるの」って陰で言ってたくせに。
でも正直、めちゃくちゃ嬉しかった。やっとレールに戻れた。社会の一員になれた。
入社式。スーツ着て、同期と並んで、社長の話聞いて。「ああ、俺もやっとここに来たんだ」って思った。幸福度は人生MAX。
朝礼という儀式
入社1ヶ月。配属された。
最初の違和感は朝礼だった。
毎朝8時45分。全員起立。声を揃えて社訓を読み上げる。「お客様第一」「誠実な対応」「チームワーク」。7項目。読み終わったら課長が一言コメントして「今日もよろしくお願いします!」の唱和。
これ意味あんのか? 社訓を毎朝読んだら成果が上がんのか? この時間で1件動いた方がよくないか?
でも新人だから黙って読んだ。
「空気を読め」かよ
仕事自体は嫌いじゃなかった。むしろ得意だった。資料作りも数字管理も、新書で鍛えた論理力でなんとかなった。
でも仕事の半分以上は「空気を読む」ことだった。
課長の機嫌を伺う。先輩のやり方に従う。会議で余計なことを言わない。飲み会で上司の酒を注ぐ。2次会行きたくなくても「行きます!」。
成果出しても「協調性がない」で評価が下がる。数字出しても「報連相ができていない」でダメ出し。
ある日、先輩に言われた。「きこにいはさ、もう少し空気読んだ方がいいよ」
空気? 空気ってなんだよ。目に見えない。数値化できない。ルールにも書いてない。でも「読めない」と評価が下がる。
俺は小学4年の時から、この「空気」ってやつが読めなくて学校行けなくなったんだよ。17歳で勉強して、大学受かって、上場企業入って、また「空気を読め」かよ。
自分で動けない
一番しんどかったのは、自分で判断できないこと。
「この案件、こう動いた方が絶対いい」。でもまず先輩に相談。課長に許可。部長の承認。3日後に「OK」出る頃にはタイミングが過ぎてた。
稟議書。会議。承認待ち。全部無駄だと思った。
俺は自分で考えて、自分で動いて、自分で結果を出したい。でもサラリーマンはそれが許されない。個人の能力より組織のルール。正しいことより前例。
暗号資産でプログラミングに出会った
入社2年目の頃、暗号資産の取引を始めた。きっかけはニュースで「ビットコインで億り人」を見たこと。
最初は手動取引。チャート見て、買って、売って。素人なりに少し増えた。
ある日、「これ、自動化できるんじゃね?」って思った。
調べたら API でプログラム的に注文出せる、と。Python の入門書を買って、独学で書き始めた。週末は全部これに溶かした。
会社の朝礼で社訓唱和してる時、頭の中はずっとコードのことを考えてた。「あの bug、こう直せば動くな」「あの戦略、コードに落とせば検証できるな」。
会社員としてはダメ社員だった。でも、人生で初めて「自分で何かを作る」感覚を覚えた。
日曜の夜、吐いた
入社して数年。日曜の夜に吐き気がするようになった。
月曜が来るのが怖い。朝礼で社訓読んで、空気読んで、上司の顔色伺って。考えるだけで胃が痛い。
日曜の夕方5時くらいから体調が悪くなる。「サザエさん症候群」ってやつだ。笑い事じゃない。マジで辛かった。
ある日曜の夜、トイレで吐いた。何も食べてないのに胃液だけ出た。
その時思った。「これ、小学4年の時と同じじゃん」。
学校に行けなくなった時と同じ症状。同じ拒否反応。体が「ここは違う」って叫んでた。
辞めた
入社2-3年目。月曜の朝。朝礼で社訓を読み上げた後、課長に言った。
「退職したいです」
課長は冗談だと思ったらしい。「は?」って顔。
「本気です」
理由を聞かれた。「空気を読むのが苦痛です」なんて言えるわけない。「家庭の事情で」って誤魔化した。
最終出社日。デスク片付けて、会社出た。
外に出た瞬間、空気がうまかった。比喩じゃなくて本当にうまかった。息が深く吸えた。数年間、ずっと浅い呼吸で生きてたんだって気づいた。
解放感が9割。不安が1割。
わかったこと
上場企業を数年で辞めた人間。履歴書に書いたら「根性なし」。親にも「せっかく入ったのに」って言われた。
でもあのまま続けてたら壊れてた。小学4年の時みたいに、もっとひどく壊れてた。
辞めてから気づいた。俺は「会社員」が向いてないんじゃなくて、「他人の作ったルールで動く」ことが向いてないんだ。
学校も同じだった。先生のルールに従う。会社も同じ。上司のルールに従う。
俺は自分でルールを作りたい人間だった。20代半ばでやっと気づいた。
後にわかったけど、これは「起業家気質」ってやつらしい。社会のレールに乗れない人間の中には、自分でレールを敷く側に回れるやつがいる。俺はそっち側だった。
暗号資産が残してくれたもの
退職後、暗号資産の取引はそのまま続けた。
会社員時代に独学で書いたコードは、辞めてからも資産になった。プログラミングのスキル、自分で何かを作る感覚、データを扱う癖。これ全部、後の人生で使い倒すことになる。
会社員時代に得た一番の財産は給料じゃなくて、「コードを書ける自分」だった。
上場企業を辞めたこと、今は1ミリも後悔してない。あの数年は「会社員は無理だ」っていう最終確認と「自分で動ける手段を覚える」助走期間だった。人生で最も高い授業料を払って学んだ、最も重要な気づきだ。
会社の名刺を捨てた話の続きは、アジト(無料のDiscord)で。名前は聞かねえ。いつ抜けてもいい。
