定時制高校に入った
17歳。定時制高校1年目。
ネトゲ廃人時代は中学生の頃に親にネット切られて終わった。それでも中学3年間まるまる不登校。高校なんか行けるわけない。内申点が壊滅してるから全日制は受験すらできない。
でも母親がどこからか定時制高校の情報を見つけてきた。「ここなら入れるかもしれない」って。
正直、興味なかった。また学校かよ。でも母親の目があまりにも真剣で、「見学だけ」って着いて行った。
定時制の雰囲気は普通の学校と全然違った。生徒の年齢がバラバラ。16歳もいれば40歳もいる。働きながら通ってる人。子育てしながら通ってる人。中学出たばかりの不登校児。全員が何かしら抱えてた。
「ここなら浮かないかもしれない」
そう思って入学した。
RADWIMPS
入学して3ヶ月。授業は簡単すぎる。周りと話が合わない。また辞めようかな、と。
そん時、RADWIMPS にハマった。
きっかけは何だったか覚えてない。たぶんゲーセンで誰かが歌ってた。「有心論」を聴いた瞬間、頭ぶん殴られた。歌詞が刺さりすぎた。
「君の名は声で僕が呼ぶ」「僕の名は君が呼ぶんだ」
自分の名前を呼んでくれる存在。家族以外で、そんな人間に出会ったことがあるか? なかった。中学3年間、誰にも名前を呼ばれてなかった。画面の向こうのギルドメンバーに HN で呼ばれてただけだ。
歌詞カードを開いて気づいた。「俺、この日本語、半分くらい意味わかんねえ」。
不登校3年間で日本語の読解力が完全に死んでた。比喩を理解できない。慣用句がわからない。文章の前後関係が追えない。
RADWIMPS の歌詞を理解するために、国語の勉強を始めた。
笑えるだろ。RADWIMPS が勉強のきっかけ。
英語の先生
定時制1年の終わり頃。英語の先生に呼ばれた。30代の女性。普通の先生って感じ。
「あなた、最近授業中にずっと辞書引いてるね」
RADWIMPS の英語版インタビュー記事を読もうとして、授業中に辞書引いてるのバレてた。
「辞書はいいんだけど、何のために英語勉強してるの?」
正直に言った。「歌詞の意味、知りたくて」
先生は笑って、本を1冊くれた。「これ読んでみな。簡単な英文だから」
サン=テグジュペリの『星の王子さま』英訳版。
その夜、辞書引きながら3時間で読み切った。半分意味わかんなかった。でも「英語で文章読めた」って感覚が、初めてあった。
翌週、感想を言ったら先生はもう1冊くれた。ヘミングウェイ『老人と海』。
毎週、先生が本を1冊くれる。俺が辞書引きながら読む。感想を語る。2人だけの英語授業が始まった。
刺さった一言
ある日、聞いた。「先生、なんで教師やってんの?」
先生は少し考えてから言った。
「私はね、本で世界が広がったから。地方の田舎で育って、海外なんか行けないと思ってた。でも英語の本を読みまくって、頭の中で世界中を旅できた。勉強って、自分の世界を広げるための道具だよ」
刺さった。マジで刺さった。腹の底まで。
俺はそれまで「勉強=学校でやらされるつまらないもの」だと思ってた。でも先生の言う勉強は違った。自分が知りたいことを、自分のペースで、自分のために学ぶこと。
「あなた、頭の使い方が普通じゃない。学校の型にハマらなかっただけで、頭は動いてる」
17年間生きてきて、初めて大人の言葉が腹に落ちた瞬間だった。
図書室に住んだ
その日から生活が一変した。
定時制は夕方からの授業。日中は全部自由時間。図書館じゃない、学校の図書室。地味な狭い部屋。司書さんが1人いるだけ。
毎朝そこに通った。誰もいない。静かすぎて、自分の呼吸が聞こえる。
最初は新書から手をつけた。岩波新書、ちくま新書。テーマは何でも良かった。脳科学、社会学、歴史、宗教、経済学。1冊500円ちょいで世界が一個増える感覚。
そのうち岩波文庫、ちくま文庫に手を出した。古典の名著が文庫で読める。これが衝撃だった。
新書を週に5冊。文庫を月に20冊。司書さんに「あなた、本当に読んでるの?」って疑われるくらい通い詰めた。
「知る」ことの中毒性
「知る」ことはマジで快感だった。ネトゲでレベルが上がる感覚に似てる。
新しい知識を手に入れると、世界の見え方が変わる。昨日まで見えなかったものが見える。ニュースの裏側が読めるようになる。政治家の発言の意図がわかるようになる。
英語の先生の言ってた「世界が広がる」って、これのことだったんだ。
ネトゲ廃人だった俺が、知識中毒になった。中毒先が変わっただけとも言える。でもこっちの中毒は、人生を壊さない方の中毒だった。
それでもまだ何者でもなかった
17歳。定時制高校1年。RADWIMPS と新書漬けの日々。
世界は広がった。でも、俺自身は何者でもなかった。本を読んだだけで人生が好転するほど甘くない。
ただ、種は撒かれた。それは確かだ。あとは芽が出るのを待つだけだった。
この話の続きが聞きたいなら、アジトに来い。名前聞かねーし、いつ抜けてもいい。
